カントの難解テクストの代表として名高いこの一節。
「 汝の意志の格率が常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるよ うに行為せよ」
もちろんこのテクストの前後には同様に難解なテクストが山のよう に並んでいるわけだが、ここにカントの主張が込められている。
カントは現代では哲学よりも倫理の授業で知る学生が多いだろう。
この一節は倫理、もしくは正義に関わる一節で、 この意味を理解するには多少の前段が必要となる。
目の前にフラフラと車道に飛び出しそうな子供が居たとしよう。
見ず知らずのどこの誰かも知らない子だ。
しかしあなたは目の端で危険だな、 と察知しながら道を歩いていた。
しばらく行くとその子供がまさに車道に駆け出そうとする瞬間を見 た。
あなたはその子は自分の子ではないし、 誰の子とも知れないから放っておくだろうか?
いや、きっとあなたはとりあえず駆け出して止めるはずだ。
車道に出て車に轢かれることがないように。
その子の親御さんはきっとあなたに感謝するはずだ。
そして「なぜ助けてくれたんですか?」 とは聞かれる事は決してないはずだ。
このように直感的に人間に命ぜられる「助けなければ!」 のような意思を、カントは「定言命法」と呼んだ。
何かを理解したからでも、 高度な計算の上に成り立つわけでもない。
いざなぜ助けたのか? と問われても明確な理由はわからないような人間の内側から湧き出 る意思。
これに対して「〇〇ならば△△せよ」 のように条件付きの規則を仮言命法と呼ぶがここでは割愛する。
これを踏まえて冒頭の文章の意味を説明する。
「汝の意志の格率が」は「お前の行動規則は」に訳せる。
あるいは「お前の正義は」でもよい。
「普遍的立法の原理」とは「法の精神」とでもしておこう。
つまり
「お前の正義は同時に法の精神にも妥当であってくれよな!」
あるいは
「定言命法が強制するものが正義であってくれよな!」
という意味となる。
定言命法が咄嗟に人を殺すように命じる事はあるだろうか?
正当防衛であればあり得るだろう。
しかしほとんどの殺人は仮言命法的に執り行われる。
「死刑ならば、死に至らしめよ」
「正直に言わなければ、死に至らしめよ」
「金を出さなければ、死に至らしめよ」
カントは人類を信じていたと思われる。
つまり定言命法的な強制力による悪事はあり得ないと考えていた。
実際に咄嗟に人を助ける事はあり得ても、 咄嗟に悪事を働く事はないように思う。
物を盗む時も仮言命法が働く。
「バレないならば、それを取得せよ」
人間の倫理にいきなりそれを盗め!だのぶっ殺せ! だの通常は起こらないよね、 というのがカントの考えでもあり願いでもあった。
ここ二、三日インフルで寝込んでました