Euclid

2017-2018
Japan
Studio shooting:Digital Photography
Canon 5Dmk3
Phase One P45
Mamiya RZ67 Pro2

『2直線に他の1直線が交わってできる同じ側の内角の和が2直角より小さいなら、この2直線を延長すると、2直角より小さい側で交わる』
-「原論」第五公準より-


数学に対する憧憬はやむことがない。幼い頃にはその精神を理解できずにバカにしたりもしたが、数学はどんな分け隔ても無く万物を貫く。現代では正しいものとして唱えられている光速普遍の法則と同様、ただ一つの堅牢な法則が絶対的に君臨する世界だ。絶対的な一方で、裏切るほどに自由で柔軟な発想なくしては未解明の数学的課題の解決は果たされないだろう。それが例え揺るぎない常識を根底から覆すものであったとしても。

その一分野である幾何学の基礎は古代ギリシアで既に明確に存在していた。「原論」といういかにもしかつめらしいタイトルの本の著者はユークリッド。人類はその歴史のほとんどを彼の提示した理論を元に幾何学を扱ってきた。まるで永久不変の真実のように。彼の示した法則や公理、公準は幾度となく矛盾や破綻が疑われ検証されている。

その中でも有名なのが上記の一文からなる第五公準、いわゆる平行線公準と呼ばれるものだ。結果から言えばある日、この公準は崩された。だが崩されたのは公準だけではなくベースとなる空間概念そのものに対して異なる考え方が発見されたのだ。それが非ユークリッド幾何学、位相幾何学へと続き現代の幾何学へつながる。

私はユークリッドや原論に途方もないロマンを感じて幾何や図形それ自体をどうしても撮影したかった。だが四角形それ自体、黄色それ自体は実在しない。もちろん東急ハンズにも売っていないし、概念はカメラに写らない。しかし私にはその時、なぜだかはっきりと見えていた気がする。幾何それ自体と色それ自体が、まるで実在する物であるかのようにはっきりと。それが幻想でなかったことの証拠はもう、この作品たち以外にない。